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  • トラックジャーナリスト中尾真二の「トラック解体新車」

    ディーゼルエンジンはもはや経営リスクなのか?

     

    2022年7月29日 Column

     
    • Tile floor parking lot

    ●排気ガス規制は強化されても弱まることはない

    国土交通省は2022年3月29日に、日野自動車、トヨタ自動車、いすゞ自動車3社に対して一部のトラック・バスについて型式指定取り消しの行政処分を行った。これは、同3月4日に日野自動車が発表したディーゼルエンジンの排気ガス試験・燃費性能試験に不正によるリコールを受けたものだ。

    不正の詳細と行政処分の内容については、すでに業界誌、一般紙含めて報道がなされているので、ここで詳しく説明することは避けるが、簡単におさらいしておくと、2016年の排気ガス規制に対応すべく開発された日野のA05C(中型エンジン)、A09C(大型エンジン)、E13C(大型エンジン)、N04C(小型エンジン)において、燃費データや排気ガス浄化装置の耐久試験データに改ざんや不正が確認された。改ざんは意図的なものとみられ事態を重く見た国交省は型式指定の取り消しを行った。

    日本版ディーゼルゲートともいえる今回の事件は、業界に対して排気ガス規制のあり方や、ディーゼルエンジンの限界といった声も聞かれる。

    排気ガス規制については、気候変動や温暖化対策から、CO2、NOX、PM(微細物質)などの排出を地球規模で削減しなければならない現状ではやむを得ない。CO2などの温室効果ガスによる影響は、温暖化、海面上昇、各地の異常気象や激甚災害の恒常化といった現実の問題になって現れている。温暖化と化石燃料由来の温室効果ガスの因果関係は多くの研究が認めているので、工場・自動車の排気ガスの規制は強まることはあっても、緩和されることはまずない。

     

    ●EUではEURO7でさらに厳しくなる

    EUでは、2026年ごろに導入される予定の排気ガス規制(EURO7)の原案を作成中。原案では、ガソリン車、ディーゼル車を区別しない単一の基準を設ける案もあり、乗用車、商用車ともに内燃機関車両の製造ができなくなる可能性がある。

    また、検査方法も、実走行試験による排気ガス検査の導入計画がある。テストベンチ上のモード走行で燃費や排気ガスを測定するのではなく、実際に走行する車両が出す排気ガスを測定する検査が導入されるかもしれない。あらかじめ想定された状態での試験ではなく、抜き打ち検査に近い形になり、整備状況、走行条件、車両の個体差によって規制値をオーバーするといったことが考えられる。

    4月にはオーストラリア連邦裁判所が、トヨタのハイラックスのディーゼル微粒子捕集フィルタ(DPF)に欠陥があると認定した。トヨタは現地での集団訴訟による多額の損害賠償請求のリスクを抱えている。

    EURO7が厳しい方向で決定され施行されたら、商用車メーカーや利用者は、内燃機関車の利用そのものが経営リスクになりかねない。排気ガスのカーボンフリー、NOX削減の技術開発コストはかさみ、フィルタや尿素還元装置など補器類の強化、拡張はメーカーの開発・製造コストを押し上げる。利用者にしても、アドブルーや定期的な排気ガスチェックなど、メンテナンスコスト、ランニングコストの負担が高止まり、もしくは増大する。

    ●EV・FCVトラックの課題:充電器インフラ

    かといって、商用車、とくに大型トラックの場合、EVやFCV(燃料電池車)の課題も多い。現実問題としてディーゼルエンジンを切り替えることは簡単ではない。

     

    商用バンや小型トラックについてはEVで対応できそうな目途がついている。三菱ふそうトラック・バスは2017年よりeキャンターを市販しており、国内導入実績も着実に伸ばしている。22年はいすゞも小型EVトラックを市場投入する予定だ。

     

    しかし、大型トラック、トラクターの場合やはり多数のバッテリーモジュールをどこに搭載するかが問題となっている。トラクターでもバッテリーの搭載スペースそのものはなんとかなるかもしれないが、バッテリー分の重量増加はGVWにおける積載量、ペイロードを減らしてしまう。EV化による動力性能の向上、燃料代(電気代)、メンテナンスコストのメリットが、積載量の減少分で相殺されてしまう。

     

    充電器は、長距離トラックでもルート固定ならば車庫や営業所などの拠点に配置すれば運用は不可能ではない。事業拠点やトラックステーションなどをメインにネットワークの整備も最適化しやすい。しかし、一般の運送業者で依頼ごと、顧客ごとにルートや荷物が変わるような場合、道路上の急速充電器の依存度が高まる。トラックステーションや高速道路のSA/PA、あるいはコンビニなどの急速充電器が使えないと困ることになる。

     

    あるメーカー幹部の話では、トラック用の充電器は、430規定(4時間走行毎30分休憩)を基準にすると走行時間4時間で進む300~450km分の充電を30分で出来なければならないという。逆にいえば大型EVトラックのバッテリー容量は400~500kmくらいの走行を賄える容量が設計の目安になっている。充電を30分で終わらせるには、充電器の出力が800kWほど必要になる計算だ。そして、トラックの場合、SA/PAごとに充電器1基というわけにもいかないだろう。

     

    ●水素は備蓄や輸送、トータルコストの問題

    では、水素による燃料電池が大型トラックの解になるのだろうか。水素(燃料電池)は、電気以上にハードルが高い。充電器の設置は本体や工事も含めて数百万円から一千万円もあれば足りるが、水素ステーションの建築費は数億円のオーダーに跳ね上がる。しかも規制する法律は電気やガソリンスタンドの比ではない。

     

    水素は液体にしろ気体にしろ保存や輸送が難しい。極低温を維持するか超高圧を維持する必要がある。化合物で保存するにしても利用時に水素だけ分離させるエネルギー(電気)が必要だ。そもそも、水素は採掘や収集できるものではなく、電気分解などエネルギーを使って生成させる必要がある。

     

    水素は、インフラ整備の問題もさることながら、燃料、エネルギーとしての効率の悪さが欠点だ。燃料電池技術は、一定レベルまで進んでいる。巨大な高圧タンクをどこに設置するか、水素製造と供給ラインをどう整備するか、といったインフラ整備コストのほうが問題になっている。自動車よりも余剰電力の備蓄や船舶など、巨大インフラを賄える規模の用途に向いている。

     

    ●課題は多いができるところから対応していく

    EVやFCVはインフラの課題を抱えており、ディーゼルエンジンは時代の要請を満たすことが益々困難になってきている。商用車業界としては、非常に難しいかじ取りを強いられているわけだ。

     

    ただ、EURO7はEUの話であって、国内の規制ではない。日本のトラックメーカーは、EU圏ではそれほど大きいビジネスにはなっていない。アジアや中国市場もEUよりは緩い規制となっている。いまのところ焦る必要はないが、ASEANや日本も脱炭素の方向性はEUと変わらない。規制が厳しくなるのは時間の問題でもある。

     

    急ぐ必要はないが、車両の開発サイクル、モデルチェンジサイクルが5年、10年という単位のトラック業界は、いまから対応を進めておく必要がある。商用バンやバス、小型トラックについては、中国など海外勢の進出がすでに始まっている。ことが決まってから対応するのでは遅すぎる。

     

    事業者側も、2025年以降の車両については、EV、FCVの導入を検討するようになるかもしれない。今後、荷主からもカーボンニュートラルの動きが強まってくるだろう。取引先やサプライチェーンのゼロエミッション化も進むはずだ。環境省は2027年あたりを目安にディーゼルなど排気ガス規制を見直す動きがある。グローバルでの競争力を維持するためにはEURO7への対応も考慮されるだろう。メーカーも対応してくるはずなので、できるところから考えていけばよい。

     
     
     
     
     

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